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防虫対策の基礎知識

防虫対策の基礎知識

食中毒の問題が起きるなど、製品の品質に対するお客様の要求は高くなっています。特に食品に対する異物混入、とりわけ虫の混入に対しては、その心理的影響も加味されるため、企業の存続すら危うくすることもしばしばです。

製造現場への虫の侵入を防ぐ手段は様々に存在しますが、ここではまず虫の生態を知ることで対策に生かすことを考えていきましょう。

1. 害虫の分類

ここでは様々な視点から害虫を分類して行きます。モニタリングにより捕獲した害虫を分析し防御方法を検討します。

1-1. 生物学的分類

鞘翅目(ショウシ目、甲虫目)
昆虫界で最大のグループであり、カブト虫のように体が堅い鞘で覆われているのが特徴。活力を失った動植物(木材、畳、衣類)等を食害するものが多く、また食菌性のものも多い。環境へ持ち込む資材や梱包材への注意、およびカビへの注意が必要である。

鱗翅目(リンシ目)
害虫としては蛾類が主であるが、分類としては蝶類も含む。食品への混入危害としては最も多い。強い走光性(光に誘引される性質:灯火誘引性)をもち、家屋の窓に張り付く姿は誰しもが目にするところであるが、実際には飛来侵入よりも、原料や資材に紛れて工場に侵入することの方が多い。貯蔵食物や粉溜まりを発生源として増殖する。防御には搬入物の管理に加え、貯蔵物の管理や清掃が重要になる。

双翅目(ソウシ目)
後翅の退化等により前翅のみとなった昆虫であり、ハエ、蚊類が該当する。腐朽した木材を食すものはあるが乾燥木材への加害は皆無である。種によって屋内発生するものと飛来侵入するものとがある。屋内発生においては排水系を主な発生源とし、防御には排水溝やその経路の清掃が重要になる。飛来侵入は灯火誘引および腐敗臭によるものが多く、後者は屋外のゴミ溜等の管理に注意が必要である。

網翅目(モウシ目、ゴキブリ目)
ゴキブリ類(とカマキリ類)を指す。人為的侵入が最も多く、一部は歩行侵入する。製品混入の際の心理的影響は甚大である。侵入、繁殖の有効な防止法はなく、殺虫剤に頼るほか有効な手段がないのが現状である。

1-2. 侵入経路による分類

屋内発生
発生のきっかけは侵入、持ち込み等の外部要因によりますが、屋内で繁殖するものを指します。薬剤等による駆除を行うとともに、育成環境を排除することが重要になります。ジバンムシ、カツオブシムシ、ゴキブリ等が該当します。

飛来侵入
屋外より風に乗って侵入するものを指します。侵入経路を遮断するとともに、空気の流れを利用することで効果的に侵入を防ぐことができます。ハエ類、ユスリカ、蛾類等が該当します。侵入後屋内繁殖するものもありますので注意が必要です。

歩行侵入
屋外より床、壁を伝って侵入するものを指します。侵入経路の遮断が重要になります。蟻、ダンゴムシ、蜘蛛等が該当します。

排水系発生侵入
排水施設に不備がある場合や、放置された水たまりが存在する場合に侵入、発生します。排水施設の不備は改良する必要がありますが、環境中の水たまり等に関しては管理で対処できるケースがほとんどです。チョウバエ、ノミバエ、ゴキブリ等が該当します。

人為的移入
人の衣服への付着、原料資材の搬入等により、人為的に持ち込まれるものを指します。屋内発生する虫の大本の原因はこの持ち込みによることがほとんどです。エリアを区切った更衣や資材流通のチェック等の対策が必要になります。

1-3. 加害対象による分類

【食品を加害する害虫】
害虫食害はそのほとんどが保管原材料で発生します。主にこぼれた食品を餌とし、時には包装容器さえもが餌となります。こぼれた食品の速やかな清掃、また使用済みの包装容器は即座に廃棄する等、基本的な衛生管理を怠ると瞬く間に害虫の巣になります。製造製品に悪影響を及ぼす前に対策を行ないましょう。

・穀類を加害するもの(米、小麦、そばetc)
コクゾウムシ、ココクゾウムシ、ナガシンクイ、コメノケシキスイ、ノシメマダラメイガ、イッテンコクガ、バクガ
・穀粉(小麦粉、米粉、そば粉、きな粉) ノシメマダラメイガ、コクヌストモド キ、ノコギリヒラタムシ(ノコギリコクヌスト)、カクムネヒラタムシ(カクムネコクヌスト)、タバコシバンムシ、チャタテムシ

・穀粉加工品加害するもの(パン、乾麺、パスタ)
ノシメマダラメイガ、コクゾウムシ、ノコギリヒラタムシ(ノコギリコクヌスト)、カクムネヒラタムシ(カクムネコクヌスト)、タバコシバンムシ、コクヌストモドキ、チャタテムシ

・乾燥食品加害するもの(椎茸、かんぴょう、乾燥野菜、乾果)
ノシメマダラメイガ、ジンサンシバンムシ、タバコシバンムシ、ノコギリヒラタムシ(ノコギリコクヌスト)

・乾魚類加害するもの(煮干し、鰹節、削り節)
ヒメカツオブシムシ、ハラジロカツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ

【書籍を加害する害虫】
製造現場やその付近に古い書籍、書類等が存在すると、それらを加害する害虫が製造製品にも悪影響を及ぼします。不要な資料等は製造現場に持ち込まないことが大切です。

・書籍を加害するもの
代表はシバンムシ。その他食品害虫とほぼ同種。紙は乾燥餌であり、糊も当然餌となる。

【衣類を加害する害虫】
保守作業用に古くなった作業着を共用している事がよくあります。洗濯後に積んである例がよく見られますが、下の方にある作業着は長い期間使われていないことがあり、そこに害虫が発生することがあります。退職者の作業着等も含め、適切な管理を心がけましょう。

・衣類を加害するもの
ヒメマルカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシ、イガ、コイガの4種(すべて幼虫)が代表。

1-4. 穿孔能力による分類

※ 穿孔(センコウ)能力 : 食品害虫が侵入するにあたり包装容器を突き破る能力のこと

【著しく強い】
オオコクヌスト(成虫、幼虫)、ナガシンクイ(成虫、幼虫)、コクゾウ類(成虫)、イッテンコクガ(幼虫)、シバンムシ類(幼虫)、カツオブシムシ類(ハラジロカツオブシムシ幼虫)

【強い】
ノシマダラメイガ(幼虫)、スジマダラメイガ(幼虫)、コクヌストモドキ(成虫、幼虫)、コメノゴミムシダマシ(成虫、幼虫)

【穿孔能力がない】
ノコギリヒラタムシ(成虫、幼虫)、カクムネヒラタムシ(成虫、幼虫)

2. 照明と走光性(灯火誘引性)について

自然界には光に誘引される(走光性または灯火誘引性といいます)生物が多数存在します。虫に関しても例外ではなく、工場から発せられる光が虫を呼びます。特に夜間はその影響が大きくなります。(余談ですが人も例外ではありません。) 虫は一般に紫外線領域の光を強く感知します。紫外線は人の目には感知できませんが、太陽光および照明光に含まれています。特に日常使用することの多い蛍光灯や、さらには屋外使用することの多い水銀灯にはこの紫外線は多く含まれ、虫を呼び寄せる原因となっています。夜間の照明には細心の注意が必要になります。

また逆に、光に対して逃げる性質を負の走光性といいます。
窓の外側に蜘蛛の巣がありませんか?それは害虫侵入の危険信号です。

捕虫器(補虫器)

昆虫の光に誘引される性質を利用したのが捕虫器(補虫器)です。紫外線ランプを使用し、誘引した虫を粘着テープで捕獲する、あるいは高電圧で破壊するといったものが多数販売されています。

工場の防虫対策として捕虫器(補虫器)は有効ですが、その使用方法を間違えると却って虫を増やすことにもなりかねません。最近は少なくなりましたが、以前は出入り口傍外側に捕虫器を置いているコンビニが多数ありました。これは間違った使い方の代表です。

捕虫器(補虫器)は単独で効果を発揮することは少なく、他の対策と組み合わせる必要があることがほとんどです。使用環境によって最適な捕虫器(補虫器)のタイプも違ってきます。専門家に相談することをお勧めします。

防虫フィルム

光が虫を誘引するとはいえ、工場に於いて光を使わないわけにはいきません。そこで人と虫との光を感知する能力の差を利用し、例えば蛍光灯が発する光のうち、虫が感知する紫外線領域の光だけを取り除いてしまおうという発想が生まれました。

紫外線を通さないフィルム(防虫フィルム)を窓に貼る、あるいは蛍光灯に巻くといった方法で、工場の外へ紫外線を漏らさないようにするという発想です。これにより工場は稼働していても虫にはそこは暗闇であるかの様に見せる事ができます。

橙色に塗られた窓を見たことはありませんか。紫外線を透過させないように細工してあるのです。一般に400nm以下の光を通さないようになっていることが多い様です。

しかし問題もあります。防虫フィルムを蛍光灯に巻いた場合は作業場全体が橙色に染まってしまいます。窓に貼り付けた場合には昼間の日差しが橙色になってしまいます。こういった特定の色が強調された環境は人間に強いストレスを与えます。昼間でも屋内照明を灯す等の対策が必要になります。

この問題に対し、最近は無色透明の防虫フィルムも発売されています。しかし今のところ紫外線カットの性能は有色タイプに及ばず、遮断範囲は300nm以下程度のようです。それでも一定の効果は期待できます。

また蛍光灯に巻くタイプのものには蛍光灯破損時の飛散防止を謳ったものもあります。必要性と予算を検討して、うまく利用しましょう。

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